進化の分野で出てくる「遺伝的浮動」という用語があります。進化を考えるうえで非常に重要な役割を果たすものなのですが、若干イメージしにくい側面もあります。
今回は、この遺伝的浮動を解説しつつ、実際に遺伝的浮動の影響を受けた血液型の不思議な事実について説明していきましょう。
遺伝的浮動
遺伝的浮動とは、「環境の変化とは関係なしに、偶然によって集団における遺伝子の割合が変化すること」を言います。
生物集団内の遺伝子は、必ずしも自然選択において有利になったり不利になったりしないものも多いです。例えば花の色は、直接的には植物の生存率に影響しません。ネズミの眼の色が赤かったり黒かったりしたからと言って、どちらの方が有利とか不利とかは然程ないわけです。
そのような遺伝子は、自然選択によって、必然的に淘汰されたり繁栄したりすることはありません。その代わり、偶然によって淘汰されたり繁栄したりすることがあります。
民族と血液型
ここで、いろいろな民族の血液型の分布をみてみましょう。
日本人はどの血液型もそれなりにいます(だいたいA:B:O:AB=4:2:3:1といった感じですね)。
それに対して、ハワイ先住民はA型が61%と多く、B型やAB型はほとんどいません。ペルーのインディオは全員O型で、ネイティブアメリカンはO型が大半で少数のA型、アボリジニー(オーストラリア民族)はO型とA型のみで構成されています。
なぜこのような極端な血液型の構成になるのでしょうか?これを説明するのが、先ほどの「遺伝的浮動」です。
血液型と遺伝的浮動
ヒトには4種類の血液型があるわけですが、別に血液型が違うとはいえ生存率に有利不利はありません。その為、4種類の血液型はどれかが極端に繁栄したりどれかが衰退することなく存在していました。
ところがある時、南北アメリカ大陸やオーストラリアに進出した少数の集団がいました。彼らは偶然O型ばかり、あるいはO型がほとんどの集団だったのです。多分もともとO型の一族だったり一家だったりしたのでしょう。
移住した後、彼らの子孫が増えていくわけですが、先祖がO型メインであったため、その子孫のインディオやアボリジニーもO型が多くなったという訳です。
この遺伝的浮動の結果は、完全に偶然に起因するものです。
この場合の「移住した人が限定的である」ように、のちの遺伝子頻度に影響を及ぼす個体数の減少や選抜のことを「瓶首効果」「ボトルネック」と呼んだりします。
ちなみに、アボリジニーについては、最初にO型のみの集団が移住した後に、別のA型のみの集団が移住したのではないかとも考えられています。遺伝的浮動や考古学を組み合わせると、どのような民族が移住していったのかを推定することもできるのですね。
まとめ
遺伝的浮動と血液型の分布について説明してみました。
遺伝的浮動は自然選択による進化と違い、完全に偶然によるというユニークな説です。言葉ではなかなかわかりにくいのですが、例を見ながらどのような考え方なのかを把握していってくださいね。
ABO式血液型については、こちらもご覧ください。
それでは!