ハーディ・ワインベルグの法則や遺伝子頻度に関する遺伝問題について紹介しましょう。
最近は定番問題になってきましたね。コンスタントに様々な大学・学部で出題されます。
例題
では例題を見てみましょう。
特定の地域に生息する同一の種類の生物集団が持っている遺伝子全体を遺伝子プールと呼び、遺伝子プールに含まれているそれぞれの対立遺伝子の割合を遺伝子頻度と呼ぶ。遺伝子頻度は、一定の条件を満たした集団においては、世代を経ても変化しないことが知られている。
①下線部は何という法則か答えよ。また、この法則が成立する条件には「集団がある程度大きい」「突然変異が起こらない」のほかに3つの条件がある。その3つの条件を選択肢の中から選べ。
(ア) 集団内で任意に交配が起こる
(イ) 集団内の雌雄の割合が等しい
(ウ) 遺伝子型や表現型の違いにより自然選択が働かない
(エ) 一個体が産む子孫の数が一定である
(オ) 他の同種集団との間に個体の流出入が起こらない
②下線部の法則が成立する400個体から成る集団Xにおいて、対立遺伝子Aとaについて調査した。その結果、潜性(劣性)形質である表現型[a]を示す個体は36個体であった。
集団Xにおける遺伝子Aの遺伝子頻度をp、遺伝子aの遺伝子頻度をqとする場合、pとqの数値を求めよ。
また、集団Xの子孫である集団Yにおける遺伝子型がAaである個体の数を求めよ。
③上記②の集団Xが生息する環境に変化が起こり、集団X中の潜性(劣性)ホモ個体が全滅した。この集団の子孫である集団Zの遺伝子頻度がどのように変化するか、小数点第3位を四捨五入して求めよ。
また、集団Zの個体数が400個体のとき、遺伝子型がAaである個体の数を小数点以下を切り上げて求めよ。
ただし、集団X中の潜性(劣性)ホモ個体が全滅したこと以外は下線部の法則が成立していると考えてよい。
④下線部の法則が成立するヒトの集団Hにおいて、ABO式血液型を調査した。その結果、A型は39%、B型は24%、O型は25%、AB型は12%であった。この集団HにおけるA型遺伝子、B型遺伝子、O型遺伝子の遺伝子頻度を求めよ。
①と②は基礎問題です。しっかりと解き方をマスターしておきたいタイプの問題です。
③と④は少々難しいかもしれませんが、これくらいの問題がしっかり解ければひとまず基本は身についたと考えてよいでしょう。
遺伝子頻度とハーディ・ワインベルグの法則
遺伝子頻度とハーディ・ワインベルグの法則についておさらいしておきましょう。
遺伝子頻度
遺伝子頻度は、「ある集団における対立遺伝子の出現頻度」と定義されます。
例えば、100個体から成るある集団があったとしましょう。その集団の中にAとaの対立遺伝子が存在し、AA、Aa、aaの遺伝子型をもった個体が49個体、42個体、9個体いたとしましょう。
そうすると遺伝子Aは、
遺伝子型AAが49個体いるので、遺伝子Aは49×2=98個、
遺伝子型Aaが42個体いるので、遺伝子Aは42×1=42個、
合計で98+42=140個存在することになります。
遺伝子aについて考えると、
遺伝子型Aaが42個体いるので、遺伝子aは42×1=42個、
遺伝子型aaが9個体いるので、遺伝子aは9×2=18個、
合計で42+18=60個存在することになります。
この100個体から成る集団には、遺伝子が合計200個ありますので、
遺伝子Aの割合は
140/200=0.7
遺伝子aの割合は
70/200=0.3
となります。
つまり、遺伝子Aの遺伝子頻度は0.7、遺伝子aの遺伝子頻度は0.3であるといえます。
遺伝子型Aaの42個体は、左上の枠と右下の枠に21個体ずつ分かれている点に気を付けてください。
ハーディ・ワインベルグの法則
以下の条件が成立するときに、遺伝子頻度は世代が進んでも変化しないという法則を「ハーディ・ワインベルグの法則」と言います。
- 集団内の個体数が十分に大きいこと
- 個体間に生存力や繁殖力の差がなく、自然選択が働かないこと
- 集団内では個体が自由に(任意に)交配していること
- 他の集団との間に移住や移入がないこと
- 突然変異がおこらないこと
いま遺伝子Aの頻度がp、遺伝子aの頻度がqであり、p+q=1であるとき、任意交配したときに次世代の各遺伝子型の頻度は次のようになる。
遺伝子型AA:p2
遺伝子型Aa:2pq
遺伝子型aa:p2
次世代の遺伝子Aの頻度はp2+2pq/2=p2+pq=p(p+q)=p
遺伝子aの頻度は2pq/2+q2=pq+q2=q(p+q)=q
となり、最初の世代と同じになる。
イギリスの数学者ハーディとドイツの医者ワインベルグがほぼ同時期に発表した法則であることから、ハーディ・ワインベルグの法則と呼ばれています。
①の解き方
①下線部(一定の条件を満たした集団においては、世代を経ても変化しない)は何という法則か答えよ。また、この法則が成立する条件には「集団がある程度大きい」「突然変異が起こらない」のほかに3つの条件がある。その3つの条件を選択肢の中から選べ。
(ア) 集団内で任意に交配が起こる
(イ) 集団内の雌雄の割合が等しい
(ウ) 遺伝子型や表現型の違いにより自然選択が働かない
(エ) 一個体が産む子孫の数が一定である
(オ) 他の同種集団との間に個体の流出入が起こらない
これは知識問題ですね。答えは、
になります。
ハーディ・ワインベルグの法則の成立条件は暗記しておく必要があります。
②の解き方
②下線部の法則が成立する400個体から成る集団Xにおいて、対立遺伝子Aとaについて調査した。その結果、潜性(劣性)形質である表現型[a]を示す個体は36個体であった。
集団Xにおける遺伝子Aの遺伝子頻度をp、遺伝子aの遺伝子頻度をqとする場合、pとqの数値を求めよ。
また、集団Xの子孫である集団Yにおける遺伝子型がAaである個体の数を求めよ。
遺伝子頻度pとqを求めるという最も基本的な問題のひとつです。
まずは遺伝子頻度pとqが個体数とどのように関係しているかを整理しましょう。
問の設定より、集団Xにおける遺伝子Aの遺伝子頻度をp、遺伝子aの遺伝子頻度をqとします。また、問題文には書いていませんが、p+q=1となります。
1つの対立遺伝子の遺伝子頻度を合計すると1になります。
パーセントの総計が100%になるのと同じ考え方です。
集団Xの各遺伝子型の個体数は、下図のように遺伝子頻度同士の掛け算で表現することができます。
まとめた図からは、
p2+pq+pq+q2=全個体
という関係が見いだせます。つまり、
- 遺伝子型AAの個体数=p2×全個体数・・・(α)
- 遺伝子型Aaの個体数=2pq×全個体数・・・(β)
- 遺伝子型aaの個体数=q2×全個体数・・・(γ)
という考え方が可能です。
さて、問題文では「潜性(劣性)形質である表現型[a]を示す個体は36個体であった」という記述があります。これを言い換えると、「遺伝子型aaである個体は36個体であった」ということになります。
即ち、(γ)の式から考えると、
遺伝子型aaの個体数=q2×全個体数 ⇔ 36=q2×400
となり、
q2=36/400 ⇔ q=6/20=0.3
というように遺伝子aの遺伝子頻度qが求まります。
また、
p+q=1より、p=0.7
というように遺伝子Aの遺伝子頻度pが求まります。
また、遺伝子型Aaの個体数については、(β)の式を活用しましょう。p=0.7、q=0.3を代入すると、
遺伝子型Aaの個体数=2pq×全個体数
⇔ 遺伝子型Aaの個体数=2×0.7×0.3×400
⇔ 遺伝子型Aaの個体数=168
となります。
次世代(今回は集団Y)の中で、特定の遺伝子型を持つ個体数を求めるとき、ハーディ・ワインベルグの法則が成立していれば、前世代(今回は集団X)の遺伝子頻度をそのまま使用することができます。
③の解き方
③上記②の集団Xが生息する環境に変化が起こり、集団X中の潜性(劣性)ホモ個体が全滅した。この集団の子孫である集団Zの遺伝子頻度がどのように変化するか、小数点第3位を四捨五入して求めよ。
また、集団Zの個体数が400個体のとき、遺伝子型がAaである個体の数を小数点以下を切り上げて求めよ。
ただし、集団X中の潜性(劣性)ホモ個体が全滅したこと以外は下線部の法則が成立していると考えてよい。
基本的な計算方法は②と同様ですが、今回は集団Xの潜性(劣性)ホモ個体(遺伝子型aaの個体)が全滅し、その後その集団が子孫を産んで集団Zができたという設定が付け加えられています。
とりあえず遺伝子型aaの個体が全滅した後の集団Xを集団Wとしましょう。
まずは集団Wに含まれている遺伝子Aと遺伝子aをカウントし、それぞれの遺伝子頻度を再び算出するところから始めます。
先ほどの結果を使って、遺伝子型aaが全滅する前の集団Xを調べてみましょう。
- 遺伝子型AAの個体数=p2×全個体数=0.72×400=196個体
- 遺伝子型Aaの個体数=2pq×全個体数=2×0.7×0.3×400=168個体
- 遺伝子型aaの個体数=q2×全個体数=0.32×400=36個体
そして集団Xのうち、遺伝子型aaの個体が全滅してしまった結果が集団Wになりますので、集団Wには
- 遺伝子型AAの個体=196個体
- 遺伝子型Aaの個体=168個体
合計364個体が含まれています。ここから、集団Wの中に含まれる遺伝子Aと遺伝子aの数をカウントしていきます。
遺伝子Aについては、
遺伝子型AAが196個体いるので、遺伝子Aは196×2=392個、
遺伝子型Aaが168個体いるので、遺伝子Aは168×1=168個、
合計で392+168=560個存在することになります。
遺伝子aについて考えると、
遺伝子型Aaが168個体いるので、遺伝子aは168×1=168個、
合計で168個存在することになります。
ということで、この集団Wには、遺伝子が合計728個(560個+168個)ありますので、
遺伝子Aの割合は
560/728=0.769≒0.77
遺伝子aの割合は
168/728=0.230≒0.23
となります。
つまり、
集団Wにおける遺伝子Aの遺伝子頻度は0.77、遺伝子aの遺伝子頻度は0.23です。
この遺伝子頻度をそのまま、子孫である集団Yの遺伝子頻度として用いることができます。したがって、
集団Yにおける遺伝子Aの遺伝子頻度は0.77、遺伝子aの遺伝子頻度は0.23
となります。
さて、遺伝子型Aaの個体数を求めます。基本的な計算方法は②と同じですが、遺伝子頻度は今求めた値を用いましょう。
ただし、四捨五入した後の値であるp=0.77、q=0.23を代入すると、値がずれる可能性があります。
その為、p=560/728、q=168/728という四捨五入する前の値を使って計算しましょう。
遺伝子型Aaの個体数=2pq×全個体数
⇔ 遺伝子型Aaの個体数=2×(560/728)×(168/728)×400
⇔ 遺伝子型Aaの個体数=142.01≒142個体
となります。
四捨五入後の遺伝子頻度であるp=0.77、q=0.23を代入すると、141.68個体となり、少し値がずれます。今回はたまたま四捨五入して142個体となりますが、問題の値によっては四捨五入後の値がずれるので注意しましょう。
問題によっては、「四捨五入後の遺伝子頻度の値を用いてよい」と注釈がある場合もあるので、その場合は問題の指示に従ってください。
④の解き方
④下線部の法則が成立するヒトの集団Hにおいて、ABO式血液型を調査した。集団Hは300000人から成る集団で、A型は117000人、B型は72000人、O型は75000人、AB型は36000人であった。この集団HにおけるA型遺伝子、B型遺伝子、O型遺伝子の遺伝子頻度を求めよ。
遺伝子が3つの複対立遺伝子になりましたが、基本的な考え方はこれまでと同様です。
まずは各血液型の頻度を計算しておきましょう。
- A型の頻度=117000/300000=0.39
- B型の頻度=72000/300000=0.24
- O型の頻度75000/300000=0.25
- AB型の頻度=36000/300000=0.12
A型遺伝子の遺伝子頻度をp、B型遺伝子の遺伝子頻度をq、O型遺伝子の遺伝子頻度をrとおきます。
各血液型の頻度は、下図のように遺伝子頻度同士の掛け算で表現することができます。
- A型の頻度=p2+2pr=0.39・・・(α)
- B型の頻度=q2+2qr=0.24・・・(β)
- O型の頻度=r2=0.25・・・(γ)
- AB型の頻度=2pq=0.12・・・(δ)
あとはこの方程式を解いていきます。
r2=0.25より、r=0.5が求められ、
これを(α)や(β)の式に代入していくと、p=0.3、q=0.2と求まります。
まとめ
ハーディ・ワインベルグの法則と遺伝子頻度に関する問題を紹介しました。
いずれの問題でも、遺伝子頻度をうまく表に当てはめて個体数との関係を探ることにより見通しが立ちやすくなります。
冒頭でも紹介したように、この分野の計算問題は幅広い大学で出題されるタイプの問題です。是非ともしっかりと解けるようになれておきたいですね。
それでは!