今回は、植物ホルモンをまとめていきます。
植物ホルモンとは、植物の中で合成されて多様な働きを示す物質のことを指します。
植物の成長や生理反応においては様々なホルモンが関与しています。
高校生物の範囲で紹介されるものに加え、近年植物ホルモンの仲間入りをした3種類を紹介していきます。
植物ホルモン一覧
表を作りながら「多っ!」と思っていました…!
植物ホルモンの特徴は、一つのホルモンが多様な作用を有していたり、他のホルモンとの関係によって作用が微妙に変わったりするところです。
まずは太字で書かれているホルモンやホルモンの働きについて覚え、その後細字のホルモンについてつけ足していくのがいいかなと思います。
それでは、個々のホルモンについて簡単に説明していきます。
オーキシン
オーキシンは主に植物の成長を促す作用をもつ植物ホルモンです。
具体的な成分として、天然物ではインドール-3-酢酸(IAA)、人工合成物では2,4-D(2,4-ジクロロフェノキシ酢酸)やナフタレン酢酸が知られています。
細胞壁をエクスパンシンという物質により一時的にバキバキに脆くし、細胞の伸長を促進することで植物が伸長成長します。この作用についての最適な濃度は植物の器官によって異なりますが、これが屈性や頂芽優勢、発根の促進の原因となっています。
その他、細胞分裂の促進や離層の形成を抑制することによる落葉・落下の抑制、子房や果実の成長・成熟の促進など、かなり多くの作用が明らかになっています。
伸長、発根、細胞分裂など、「植物をガンガン成長させる」イメージのホルモンです。
サイトカイニン
サイトカイニンはオーキシンと協働して植物の成長を促したり老化を防止したりする植物ホルモンです。
具体的な成分として、カイネチンやゼアチンが知られています。
オーキシンが存在すると細胞分裂を促進します。これを利用して細胞を培養することができ、カルス(細胞の塊)を形成することができます。カルスをオーキシンとサイトカイニン存在下で培養するとシュートが形成され、オーキシンのみで培養すると根が形成されます。
また、頂芽優勢を解除して側芽の成長を促進したり、葉の老化を抑制したりします。
その他、気孔の開放(これは葉の老化抑制にもつながりますね)に関わるなどの作用が明らかになっています。
「植物を成長させつつ、若々しさを保つ」イメージのホルモンです。
ジベレリン
ジベレリンは、主に植物を伸ばすことにより成長を促すホルモンです。
具体的な成分としては非常に多くが確認されており、130種類以上の成分があることが分かっています。
最も有名な効果としては、植物細胞を伸ばすことにより伸長成長を促進することです。
ジベレリンは日本で黒沢英一が発見した植物ホルモンです。稲が馬鹿みたいに伸びてしまう馬鹿苗病という稲の病気があり、これの原因がとあるカビだったのですが、そのカビがジベレリンを作っていることを発見した、というエピソードがあります。
また、種子の休眠打破・発芽促進も重要な働きです。開花の促進を含めて、これらの作用は農業でよく利用されており、種子を効率よく発芽させるのに利用されています。
加えて、単為結実の促進も非常に重要です。単為結実とは、受粉なしに子房の肥大を促進させ、種の無い状態で果実を形成させることです。これも農業でよく利用される作用で、種なしブドウを生産する際によく用いられます。
「植物を目覚めさせ、伸ばしたり開花させたり結実させたり、何となく騒がしい。起きてる感じ」なイメージです。
エチレン
エチレンは、主に植物の成熟と老化を促すホルモンです。
植物ホルモンの中では唯一の気体という特徴があります。
肥大成長により果実を成熟させ、離層を形成させて落葉や落果を促したりするのが主な作用ですね。青いバナナとリンゴを一緒に保管すると、バナナがすぐに黄色く熟す、というのを聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
「植物を老化させる」イメージのホルモンです。
諸説ありますが、植物ホルモンとしてのエチレンを発見したのは17歳の学生だともいわれています。
アブシジン酸
アブシジン酸は、種子の休眠や気孔の閉鎖を司るホルモンです。
主な作用のひとつが種子の発達と成熟、そして種子を休眠させることです。アブシシン酸は種子を発芽しないように保ち、発達と成熟を促したうえで休眠させることにより、種子の状態を維持しています。この作用はジベレリンと反対の作用であり、アブシシン酸とジベレリンは相互にバランスを取りながら、種子が発芽するタイミングをコントロールしているといえます。
また、気孔の閉鎖も重要な役割です。植物は乾燥した環境にさらされると体内の水分を保持しなければなりません。その為、気孔を閉鎖して蒸散を抑えるのですが、その時にアブシシン酸が気孔を閉鎖させる役割を果たします。
それにより、植物は乾燥に対する耐性を得ることができます。
「植物を眠らせる」イメージのホルモンです。
ブラシノステロイド
ブラシノステロイドは、植物の伸長成長、細胞分裂、種子の発芽などの働きを持つホルモンです。
ステロイドホルモンであるという特徴を持ちます。また、他の植物ホルモンに比べて極めて低濃度(1/1,000,000,000,000,000M)とかでも作用するのも特徴です。
伸長成長促進、細胞分裂促進、落果・落葉の抑制など、オーキシンやサイトカイニン、ジベレリンと似たような作用を示します。実際、オーキシンやサイトカイニンと強調しながら働くことが多いホルモンです。
その他にも花粉管の伸長の促進や病害をはじめとする様々なストレスへの耐性付与など、多様な作用を示します。
上記の伸長成長や細胞分裂などの作用も、どちらかというと植物にとって不良な環境でよく現れるそうです。
あえて言うなら「なんとなくオーキシンっぽい。ストレス耐性を与える」イメージでしょうか。
ジャスモン酸
ジャスモン酸は、主に植物の傷害に対応するホルモンです。
重要な役割として、植物が傷害(物理的な傷など)や食害、病気の感染を受けたときに応答するというものがあります。植物が物理的に傷を受けたときにジャスモン酸は生合成され、食害者(昆虫とか)にとって毒となるような成分を合成させるなどの反応を起こします。
また、ジャスモン酸はジャスモン酸メチルという成分に変化して気化し、近くの植物に移動して、傷害を受けていない植物にも傷害に対する応答を引き起こさせるような変わった働きもします。つまり、別の個体に情報を伝達するわけですね。
その他に発芽を抑制したり、根の生育を遅らせたり、成長を一時的に止めたりなどの作用も有しています。
「植物のSOSを感じ取る」イメージのホルモンです。
システミン
システミンは、ジャスモン酸を生合成するためのホルモンです。
植物ホルモンの中には、植物ペプチドホルモンというグループがあります。
ペプチドは従来植物ホルモンとしては扱われていなかったのですが、近年、ペプチドの中にも植物ホルモンとしての働きを示すものがいくつか見つかりました。システミンもその一つです。
フロリゲン
フロリゲンは、花芽形成を誘導するためのホルモンです。
植物は適した日長条件が成立すると花芽を形成して花を作ります。成熟した葉が日長を感知するとフロリゲンが合成され、フロリゲンが茎頂へ移動して花芽を形成するという作用を示します。
長らくその正体が明らかになっていなかったため、「これは植物ホルモンではない」とか「フロリゲンは存在しない」などの議論もありましたが、近年の研究成果により正式に植物ホルモンの仲間入りを果たしました。
具体的な物質としては、シロイヌナズナのFTタンパク質、イネのHd3aタンパク質があります。
ストリゴラクトン
ストリゴラクトンは、枝分かれの抑制を行う植物ホルモンです。
地下部が栄養欠乏状態になると合成され、地上部の枝分かれを抑制するような作用を示します。
「栄養があんまりないので、調子に乗って枝を増やさないようにしよう」という植物の成長戦略を担っていると考えられています。
比較的最近発見された植物ホルモンで、これから研究が進んでいくことが期待されています。
ストマジェン
ストマジェンは、気孔を増加させる植物ホルモンです。
これも最近見つかったペプチドホルモンです。今のところ、モデル植物であるシロイヌナズナでしか見つかっていませんが、さまざまな植物で似たものが見つかってきており、これも今後の研究に期待がかかります。
サリチル酸
サリチル酸は主に病害への抵抗を担う植物ホルモンです。
サリチル酸は古くから植物体内での病害応答に重要な役割を果たしていることは分かっていましたが、最近植物ホルモンに格上げされました。
植物が病原体に感染するとサリチル酸が合成され、感染した細胞の周りの細胞を細胞死させることで感染の拡大を防ぎます。
まとめ
作用が多岐にわたっているため、植物ホルモンも一つの鬼門ともいえますね。イメージをつかみながらコツコツ覚えていきましょう!
実験問題の元ネタになったりすることが多いので、細かいところまで覚えておいて損はない分野です。
ヒトのホルモンについてはこちらをご覧ください。
それでは!