今回は、染色液についてまとめていきます。
おなじみの染色液から、少々マニアックなものまで並べていきます。全部知っていたら、なかなかのものです。
染色とは
まずは「染色」ってそもそも何だったのかからおさらいしましょう。
染色は、生物の組織や細胞、オルガネラなどに、特殊な色素を用いて色を付ける技術のことを指します。
特に、顕微鏡を用いての細胞観察を容易にするために、観察対象となる細胞をあらかじめ染色しておくケースが多いですね。
一般的には、細胞をそのまま顕微鏡で観察すると、無色透明に見えます。無色透明のままでも、形状や大きさから細胞の構造などを見分けることはできなくはありませんが、あらかじめ染色を行っておけばそれぞれの観察が容易になるということですね。
多様な組織を染色するため、様々な染色方法や染色に用いられる色素である染色液が開発されてきました。
ちなみに、染色液によっては生細胞を染色できるもの、死細胞を染色できるものがあります。これらを使い分けることによって、どの細胞が生細胞で、どの細胞が死細胞なのかを見分けることなども可能です。
染色液一覧
代表的な染色液を表にまとめてみました。
このあと、一つ一つ少し踏み込んで解説していきます。
染色液は、標的とするもの以外も色々と染色することがあります。
しかし、それらを全てカウントしていくと逆にわかりにくい内容になってしまうため、ここでは代表的な標的に絞って解説しています。
酢酸オルセイン
核や染色体を赤色に染色します。
地衣類が生成する成分オルセインを酢酸に溶かしたものです。
酢酸により細胞が固定・解離され、核や染色体がオルセインにより染まります。 染色体は負に帯電しており、オルセインは正に帯電しているので、オルセインと染色体はよく引き寄せられます。
細胞の観察、体細胞分裂の観察、減数分裂の観察などでもよく用いられている、かなりポピュラーな染色液ですね。やや綺麗に染めるのが難しいともされています。
酢酸カーミン
核や染色体を赤色に染色します。
カイガラムシが生成する成分カーミンを酢酸に溶かしたものです。より染色効率を上げるために、微量の鉄イオンを加えるレシピもあります。
酢酸により細胞が固定・解離され、核や染色体がカーミンにより染まります。染色体は負に帯電しており、カーミンは正に帯電しているので、カーミンと染色体はよく引き寄せられます。
こちらも細胞の観察、体細胞分裂の観察、減数分裂の観察などでもよく用いられる、ポピュラーな染色液です。酢酸オルセインよりも簡単によく染色できるともされています。
ちなみに、カーミンは別名コチニール色素、クリムゾンレッドなどとも呼ばれています。
コチニール色素という名称が最も有名かもしれませんね。食品の着色料などによく用いられています。
メチレンブルー
核を青色に染色します。
美しい青色を呈する色素で、化学的に合成することが可能です。
メチレンブルーは塩基性であるため、カルボキシル基に対して親和性があり濃い青色に染色されます。
また、細菌の染色にも用いられますが、生菌は染色されない(最近の体内で代謝されて無色になってしまう)ため、必ず固定して死菌にしてから染色する必要があります。
これを利用して、細菌のうちどのくらいが生菌でどのくらいが死菌なのかを調べることもできます。
ヤヌスグリーン
ミトコンドリアを青緑色に染色します。
ヤヌスグリーンは細胞膜を透過しますが、細胞中の酵素によって還元されて無色になってしまいます。しかし、ミトコンドリアではシトクロムC酸化酵素によってヤヌスグリーンが酸化されるため、無色になることがありません。このため、ヤヌスグリーンでミトコンドリアを染色することができると言う訳です。
先ほどのメチレンブルーとは逆に、死細胞においてはシトクロムC酸化酵素が働いていないためミトコンドリアを染色することはできません。
ちなみに、ヤヌスグリーンがミトコンドリアの染色に使えることを発見したのは、酵素反応速度論でもおなじみのミカエリス・メンテン式を確立したレオノール・ミカエリス(ドイツ)です。
TTC溶液
ミトコンドリアを赤色に染色します。
2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロライド(2,3,5-Triphenyl Tetrazolium Chloride, TTC)が正式名称です。
TTCは通常は無色ですが、還元されると赤色を呈します。ミトコンドリアには電子伝達系にコハク酸脱水素酵素がありますが、それによって発生している水素によりTTCが還元されることによって、ミトコンドリアが赤色に染まります。
ニュートラルレッド(中性赤)
核を赤色に染色します。また、植物細胞では液胞を赤色に染色することもできます。
いずれの場合も、生きている細胞がニュートラルレッドを取り込む必要がありますので、生細胞を染色することが可能です。
イモリの局所生体染色法において、フォークトが利用した色素としても有名ですね。
ナイルブルー
核を青色に染色します。また、脂肪を染色することもでき、中性脂肪をピンク色、リン脂質や脂肪酸を青色に染色します。
生細胞にも死細胞にも使用することができます。
イモリの局所生体染色法において、フォークトが利用したもう一つの色素でもありますね。
サフラニン
細胞壁を赤色に染色します。
植物の細胞壁においては、リグニンと反応して赤色に染めることができます。
また、細菌の分類に用いられるグラム染色にも用いられることが多い染色液でもあります。
ゴルジ染色
神経線維を黒色に染色します。
組織を固定したのち、二クロム酸カリウムと硝酸銀に浸すことにより、神経線維がクロム酸銀で満たされることにより黒色に染色されます。
ゴルジ染色を確立したのはイタリアのカミッロ・ゴルジ。ちなみにすでにピンと来ていると思いますが、ゴルジ体を発見したのもこのカミッロ・ゴルジです。
ヨウ素ヨウ化カリウム溶液
デンプンを青紫色に染色します。
ご存じ、ヨウ素デンプン反応を利用した染色液です。特定の組織や器官を染色するというものではありませんが、非常によく染まることもあり、デンプンを含む箇所を染色するのに利用されます。
ヨウ素自体は水に溶けにくいため、ヨウ化カリウム水溶液にヨウ素を溶かす必要があります。ちなみにデンプンと反応する前のヨウ素ヨウ化カリウム溶液は褐色です。
その他
核や軟骨を赤紫色に染めるヘマトキシリン、
細胞質や細胞膜、赤血球をピンク色や赤色に染めるエオシン、
DNAを青緑色に染めるメチルグリーン、
RNAをピンク色に染めるピロニン、
タンパク質を青色に染めるクマシーブルー、
細胞壁を紫色に染めるクリスタルバイオレット、
などなど、染色液の種類を挙げるときりが無いくらいです。大学受験などにおいては、上記の染色液たちは重要度としては少し下がるので、興味があれば頭の片隅に置いておく、くらいで良いかなと思います。
まとめ
ひとまず表で紹介した酢酸オルセイン~ヨウ素ヨウ化カリウム溶液までを覚えておけば大丈夫でしょう。
代表的な染色液について、どの染色液がどの組織を何色に染めるのかをしっかり押さえておければよいと思います。
それでは!