【生物基礎】細胞分画法 細胞小器官の大きさをイメージしよう

遠心分離の概略図細胞と生物
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細胞分画法という実験手法について解説していきます。

細胞分画法は細胞や細胞小器官を対象とする実験の中では基礎的な実験のひとつです。教科書や入試問題でもポピュラーな内容ですね。

細胞分画法の大まかな流れ

細胞小器官は細胞内にあるので、細胞小器官を調べるためには、細胞内から特定の細胞小器官を効率良く得る必要があります。それを行うための実験が細胞分画法です。

細胞分画法の流れをものすごく簡単にまとめると、以下の2工程となります。

①細胞を壊す
②速度を変えながら回す(遠心分離する)

それでは、それぞれの手順について詳しく解説していきましょう。

①細胞を壊す

目的とする細胞を壊して、中身を取り出す破砕と呼ばれる作業です。

ただもちろん、やみくもに壊してはいけません。あまりにも乱暴に破砕してしまうと、目的とする細胞小器官まで破砕してしまう可能性があります。その為、細胞小器官を壊さずに細胞だけを破砕できるような方法や注意点がいくつかあります。

まずは細胞を破砕する方法を紹介しましょう。

方法① ホモジェナイザーを使う方法

細胞を破砕する際に、ホモジェナイザーという器具を使用する場合があります。

試験管のような細長い形のガラス管に細胞と溶液を入れ、ガラス管にぴったり合う太さの棒ですり潰します。こうすることで細胞を破砕でき、中身である細胞内小器官が出てくるわけです。

ホモジェナイザーの図

方法② 界面活性剤を利用する方法

界面活性剤を利用して細胞膜を溶かし、細胞小器官を流出させる方法があります。

細胞膜は主にリン脂質とタンパク質から構成されており、リン脂質が互いに向き合った脂質二重膜構造を形成しています。
界面活性剤は脂質-脂質間やタンパク質ー脂質間の相互作用を破壊するため、細胞膜の破壊に利用できます。

界面活性剤にはいろいろな種類がありますが、あまり強力すぎる界面活性剤を用いると、細胞膜だけでなく細胞小器官の膜も破壊されてしまいます。その為、やや穏やかに作用する界面活性剤を用いるのがポイントです。

界面活性剤により細胞膜を溶かして細胞小器官を取り出す

方法③ 超音波を利用する方法

超音波を使って細胞を破砕する方法もあります。

超音波を細胞が入った液に与えることにより、物理的に細胞を破砕する方法です。
かなりの発熱を伴うため、後述するように冷却しながら行わなければなりません。

また、超音波の破壊力が比較的強力なため、程よい出力にする調整が必要でもあります。

超音波による細胞の破砕

細胞を破砕する際の注意点

細胞を破砕する方法をいくつか紹介しましたが、細胞を破砕する際には注意すべきポイントがいくつかあります。代表的なものを紹介しましょう。

注意点① 低温で破砕液を作る

細胞を破砕すると、リソソームの中にある加水分解酵素が液中に出てきます
液の温度が高いと、この加水分解酵素がよく働いてしまい、細胞小器官を分解してしまいます。
その為、加水分解酵素の働きを抑えるためにも低温を保つことが重要です。

また、ホモジェナイザーで処理する際や超音波で処理する際には摩擦熱が生じます
この摩擦熱により液の温度が上がり、細胞小器官が変性したり、先ほどの加水分解酵素の活性が上昇したりしてしまう可能性があります。
それを防ぐためにも、低温を維持しなければなりません。

注意点② 破砕液を等張液にする

細胞を破砕する際、破砕液を等張液にしておく必要があります。
細胞小器官を形作る膜も、細胞膜と同様に半透膜です。つまり、細胞小器官内と濃度が異なる溶液が膜を通じて出入りしてしまいます。
もしも低調液であるならば、取り出した細胞小器官が吸水して破裂する恐れがあります。
逆に高張液ならば、細胞小器官が、脱水してしまう恐れがあります。

細胞や細胞小器官と等張液になるよう、スクロース溶液の濃度やNaCl(塩化ナトリウム)、KCl(塩化カリウム)の濃度を調整するのが一般的です。

注意点③ 破砕液を緩衝液にしておく

細胞を破砕すると、細胞内に含まれていた種々のイオンが破砕液中に放出されます。その結果、破砕液のpHが急激に変動する場合があります。pHの急激な変化は、細胞小器官のタンパク質を変性させてしまう可能性があります。
その為、破砕液に緩衝液を加えておき、pHの急激な変化を抑える対策をとることがあります。

注意点④ 破砕し過ぎないように

確かに細胞を破砕して中身の細胞小器官を取り出さなければいけませんが、調子に乗って破砕し過ぎるとせっかくの細胞小器官も破砕されてしまいます
細胞膜は破れても、細胞小器官はつぶさない程度に破砕することが大切です。

②速度を変えながら回す(遠心分離する)

細胞を破砕しただけでは、その破砕液には様々な種類の細胞小器官が交ざった状態です。したがって、これを種類ごとに分ける必要があります。

その為に、いろいろな速度でこの液を回す、遠心分離と呼ばれる操作をする必要があります。
細胞小器官が入った液を遠心分離することで、遠心力によりこれらの細胞小器官が沈殿します。
細胞小器官は比較的大きいものから小さいものまで、さまざまな大きさのものがあります。その為、回す速さを変えることで大きさごとに沈殿させることが出来るのです。

細胞骨格などの大きなものは重いので、低速で回して弱い遠心力をかけるだけでも沈殿します。
しかし、リボソームなどの小さなものは軽いので、上澄みに残ります。沈殿させるためには、高速で回して強い遠心力をかけなければいけません

遠心分離の概略図

この法則を利用しながら、以下のような手順で遠心分離していきます。

  1. 破砕液を低速で遠心分離する(1000G,10分)
    細胞骨格未破砕の細胞が沈殿する。
  2. 上澄み液を中速で遠心分離する(3000G,10分)
    葉緑体が沈殿する。
  3. 上澄み液を高速で遠心分離する(8000G,20分)
    ミトコンドリアリソソームペルオキシソームが沈殿する。
  4. 上澄み液を超高速で遠心分離する(100000G,60分)
    小胞体(ミクロソーム)が沈殿する。
  5. 上澄み液を最高速で遠心分離する(150000G,18時間)
    リボソーム、ウイルス、大型の分子が沈殿する。
細胞小器官を遠心分離によって分ける

イメージ的には、弱い遠心力から強い遠心力へと変えていきながら、最初は大きい細胞小器官、徐々に小さい細胞小器官を沈殿させていく、といった具合です。

細胞小器官のおおよその大きさも併せて抑えておくと、この順番は覚えやすいかと思います。

  • 核:直径3~10μm(めっちゃデカい)
  • 葉緑体:直径5μm(デカい)
  • ミトコンドリア:直径0.75~3.0μm(ちょっとデカめ)
  • リソソーム:直径0.1~1.2μm(中くらい)
  • ペルオキシソーム:直径0.1~2.0μm(中くらい)
  • リソソーム:直径20nm(0.02μm)(めっちゃ小さい)

ちなみに、小胞体という言葉ですが、もともとは「細胞分画法で100000Gの遠心分離によって分離できる画分(小胞体画分)に回収される膜構造」という意味で命名されたものです。

しれっと書きましたが、Gというのは相対遠心力という単位です。
地球の重力を1Gとしたときに、何倍の遠心力がかかっているかという相対的な値になります。1000Gなら、地球の重力の1000倍の遠心力をかけているということですね。ちなみに某有名修行部屋の重力は地球の10倍だそうです。

ちなみに、現行存在する最強の遠心分離機の能力は1,000,000G、つまり地球の重力の1,000,000倍相当の遠心力を与えられます。

まとめ

細胞分画法について解説しました。

ポイントとしては以下のような感じですね。

 ①細胞を破砕する
 ②遠心分離する(低速から高速にしていく)
 ③核や細胞骨格等→葉緑体→ミトコンドリアやリソソーム等→小胞体→リボソーム等
  の順に沈殿していく

ハッキリ言って暗記する分野ですが、なぜ冷却しながら破砕するのか、なぜ等張液を使うのかなどを考察させるタイプの問題もあったりします。そうした問題で記事で解説した内容が少しでも役に立てば幸いです。

それでは!

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