【問題解説】肺炎双球菌の形質転換実験 問題の解き方

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今回は、肺炎双球菌の形質転換に関する実験(グリフィスの実験、アベリーの実験)に関する問題について解説していきましょう。

グリフィスの実験やアベリーの実験について基本的な知識が備わっていることを前提に、実験内容がアレンジされた問題が時々見られます。

グリフィスやアベリーの実験についての解説はこちらをご覧ください。

例題

では、この例題をご覧ください。丁寧に読解していきましょう。

肺炎双球菌には病原性を持つS型菌と病原性を持たないR型菌が存在する。培地で培養すると、S型菌は滑らかなコロニーを形成し、R型菌はざらざらとしたコロニーを形成する。
グリフィスが行った実験の概要は以下の通りである。S型菌をマウスに注射すると、S型菌はマウスの体内で増殖して致死性の肺炎を起こすが、R型菌は肺炎を起こさない。しかし、熱処理で死滅させたS型菌とR型菌の混合物をマウスに注射したところ、マウスは肺炎を発症した。

アベリーも肺炎双球菌を用いて以下のような実験を行った。S型菌を破砕して得た抽出液をR型菌に混ぜて培養すると、R型菌はS型菌に形質転換する。しかしS型菌の抽出液をDNA分解酵素で処理してからR型菌に混ぜて培養すると、形質転換は起こらない。また、S型菌の抽出液をタンパク質分解酵素で処理してからR型菌に混ぜて培養すると、R型菌はS型菌に形質転換する。

①2つの培養皿AとBを用意し、培養皿Aには赤線部で肺炎を発症したマウスから得た体液を、培養皿Bには赤線部の混合物をそれぞれ加えて培養した。その後出現する肺炎双球菌のコロニーの様子はどのように予想できるか。以下の選択肢から選べ。

  1. 培養皿A、Bともに、すべてのコロニーが滑らかな見た目
  2. 培養皿A、Bともに、すべてのコロニーがざらざらとした見た目
  3. 培養皿Aの方が、培養皿Bよりも滑らかな見た目のコロニーが多い
  4. 培養皿Bの方が、培養皿Aよりも滑らかな見た目のコロニーが多い
  5. 培養皿A、Bともに、滑らかな見た目のコロニーとざらざらした見た目のコロニーが半分ずつ

②アベリーの実験を参考に、以下のような実験を行った。以下のうち、R型菌が形質転換を起こすと考えられるのはどれか。以下の選択肢から選べ。

  1. S型菌を破砕して得た抽出液と、R型菌の培養液を加熱処理した液を混合した。
  2. S型菌を破砕して得た抽出液を100℃5分で加熱した液と、R型菌の培養液を混合した。
  3. S型菌を破砕して得た抽出液と、R型菌を破砕して得た抽出液を混合した。

①の解き方

培養皿A、培養皿Bに加えられたのは、S型菌なのかR型菌なのかを考慮しましょう。

培養皿Aに加えられたのは、「熱処理で死滅させたS型菌とR型菌の混合物をマウスに注射したところ、マウスは肺炎を発症した。」と記述のあるマウスから取り出すことができた菌です。このカッコ内の操作では、R型菌がS型菌に形質転換していますが、すべてのR型菌がS型菌に形質転換しているわけではないため、このマウスに注射されたのはS型菌とR型菌が混ざったものです。

しかし、マウスの体内では、マウスの免疫反応によって莢膜を持たないR型菌が死滅しています。莢膜を持つS型菌はマウスの免疫反応に耐え抜いて生存しているので、マウス内で増殖して肺炎を起こすことができます。
したがって、肺炎を発症したマウスから生きた状態で検出されるのはS型菌のみであり、培養皿Aに加えられたのもS型菌のみと考えることができます。

培養皿Bに加えられたのはマウスに注射した混合液ですね。上記の通り、これにはS型菌とR型菌が含まれています。

よって、培養皿Aでは滑らかな見た目のコロニーのS型菌のみが生育します。培養皿Bでは滑らかな見た目のコロニーのS型菌とざらざらとした見た目のコロニーであるR型菌の両方が生育します。

Answer

①の解答

3. 培養皿Aの方が、培養皿Bよりも滑らかな見た目のコロニーが多い

②の解き方

大前提として、R型菌がS型菌に形質転換するためには、生きたR型菌とS型菌由来のDNAが必要です。
それを踏まえて、それぞれの操作で、何と何が混ぜられているのかを整理しましょう。

1.の操作では、「S型菌を破砕して得た抽出液」と、「R型菌の培養液を加熱処理した液」があります。
このうち、「S型菌を破砕して得た抽出液」には、S型菌のDNAが含まれています。
「R型菌の培養液を加熱処理した液」ですが、これには生きたR型菌が含まれていません。
ですのでこのパターンではR型菌がそもそも生きていないので、形質転換ももちろんできません。よってこの選択肢は不適です。

2.の操作では、「S型菌を破砕して得た抽出液を100℃で5分間加熱処理した液」と、「R型菌の培養液」があります。
このうち、「S型菌を破砕して得た抽出液を100℃で5分間加熱処理した液」には、S型菌のDNAが含まれています。DNAは熱に強く、100℃で5分間程度の加熱では特に分解されません
「R型菌の培養液」には生きたR型菌が含まれています。
ですのでこのパターンでは生きたR型菌とS型菌由来のDNAがそろっており、R型菌がS型菌に形質転換が可能です。よってこの選択肢は適しています。

3.の操作では、「S型菌を破砕して得た抽出液」と、「R型菌を破砕して得た抽出液」があります。
このうち、「S型菌を破砕して得た抽出液」には、S型菌のDNAが含まれています。もちろんS型菌は生きてはいません
「R型菌を破砕して得た抽出液」ですが、これにもR型菌のDNAが含まれています。しかし、R型菌も粉砕されてしまい、もはや生きたR型菌は含まれていません
ですのでこのパターンでもR型菌がそもそも生きていないので、形質転換もできません。よってこの選択肢は不適です。

Answer

②の解答

2. S型菌を破砕して得た抽出液を100℃5分で加熱した液と、R型菌の培養液を混合した。

DNAの2重らせん構造は94℃~98℃程度の熱で解け、1本鎖DNAになります。しかし温度を下げると、また2本鎖DNAに戻ります。

この特徴はPCRにも利用される特徴であり、DNAの特性としては基礎知識です。しっかり覚えておきましょう。

まとめ

形質転換の鉄則として、「形質転換される生物が生きていること」「形質転換するためのDNAが存在すること」の2点が必要です。これを踏まえておけばさほど難しくはありませんね。

①の方が、少し免疫の知識も必要でしたのでもしかしたら若干難しく感じたかもしれません。

近年は肺炎双球菌の問題の出現頻度は下がっていますが、医科系の大学や2020年のセンター試験など、一定の頻度で見られる問題です。考え方をおさらいしておきましょう。

それでは!

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