今回は伴性遺伝に関する遺伝問題について解説していきましょう。
遺伝の問題の中でもやや難しくなる傾向のある分野です。それだけに、現在も様々な大学で出題される問題でもあります。解き方や考え方をおさらいしておきましょう!
例題
まずはこの例題を見てください。
ある遺伝病は、性染色体にある潜性(劣性)遺伝子が原因である。
下の図はある家系におけるこの遺伝病の発病を調査した結果をまとめたものである。
○と□は発病していない女性と男性をそれぞれ表し、●と■は発病した女性と男性をそれぞれ表している。
①この遺伝病の原因となる潜性(劣性)遺伝子は、X染色体とY染色体のどちらに存在するか。
②この遺伝病の原因となる潜性(劣性)遺伝子を持っていないと断定できる人を特定せよ。
③5番の女性と10番の男性が結婚した場合、産まれる子がこの遺伝病を発病する確率は何%か。ただし、この問題の設定上考えられる可能性をすべて考慮して計算すること。
④この遺伝病と同様な遺伝様式を示すものとして適切なものを、以下の選択肢からすべて選べ。
(ア)赤緑色覚異常 (イ)ABO式血液型 (ウ)血友病
(エ)鎌状赤血球貧血症 (オ)フェニルケトン尿症
⑤は知識問題ですね。やや②や④が難しく感じるかもしれません。
難易度的には少々高めに設定してみました。
①の解き方
これは家系図とにらめっこしながら考えましょう。
Y染色体上の遺伝子は女性に伝わることはありません。しかし、今回の例では、女性も発病しています。つまり、この遺伝病の原因となる遺伝子はY染色体上にはないと考えられます。
したがって、この遺伝病の原因となる遺伝子はX染色体上に存在すると考えられます。
②の解き方
家系図を読み解きながら解いていきます。
まず前提となる遺伝子型と発病の有無を確認していきましょう。
この原因遺伝子について、顕性(優性)遺伝子はA、潜性(劣勢)遺伝子はaで表現していきます。
女性についてまとめると、XAXAやXAXaの遺伝子型は健康、XaXaは発病します。
男性についてまとめると、XAYの遺伝子型は健康、XaYは発病します。
さて、上記の遺伝子型の特徴を抑えた上で、家系図に現時点で判明している遺伝子型を赤字ですべて書き出していきます。
発病した人はX染色体上に遺伝子aしか存在していません。つまり、女性であればXaXa、男性であればXaYという遺伝子型が確定します。
さて、青線で囲った部分に注目しましょう。
16番の人は遺伝子型がXaXaですが、その為には両親から遺伝子Xaを1つずつ受け取る必要があります。
ということは、両親は遺伝子Xaを持っているはずですね。ということで、11番の人も遺伝子Xaを持っていることになります。しかし11番の人は発病していないため、その遺伝子型はXAXaとなります。15番の人は発病していないので遺伝子型はXAYです。
では次の青線に注目してみましょう。ここも同じように考えていきます。
12番の人の遺伝子型はXaXaですが、その為には両親から遺伝子Xaを1つずつ受け取る必要があります。
ということは、両親は遺伝子Xaを持っているため、8番の人も遺伝子Xaを持っています。しかし発病していないため、遺伝子型はXAXaとなります。13番の人は発病していないので遺伝子型はXAYです。
さらに次の青線に注目します。7番の人の遺伝子型はXaYですが、このうち遺伝子Xaは母親である2番の人由来です。2番の人は発病していないので遺伝子型はXAXaとなります。
1番、6番の人も発病していないので遺伝子型はXAYと確定します。
5番の人については、父親から遺伝子Xaを受け継ぎますが、母親から遺伝子XAを受け継ぐか遺伝子Xaを受け継ぐかはわかりません。どちらにしても発病はしないため、現時点では5番の人の遺伝子型は確定できません。
続けて次の青線です。19番の人の遺伝子型はXAYですが、このうち遺伝子XAは母親である14番の人由来です。しかし、14番の人の遺伝子型は確定しません。発病していないので遺伝子型はXaXaではないことは確定していますが、遺伝子型がXAXAであってもXAXaであっても矛盾しません。
同様に、17番と18番の人もそれぞれ遺伝子型は確定しません。
最後の青線部分です。8番の人の遺伝子型はXAXaですが、父親である3番の人は発病していません。つまり8番の人が持っている遺伝子XAは父親である3番の人由来であるとわかります。よって3番の人の遺伝子型はXAYとなります。
同様に、8番の人が持っている遺伝子Xaは母親である4番の人由来であるとわかります。4番の人は発病していませんので、その遺伝子型はXAXaと確定します。
9番の人については、父親から遺伝子XAを受け継ぐことは確定しますが、母親からはどちらの遺伝子を受け継いでも発病はしないため、9番の人の遺伝子型は確定できません。
これまで分かったことを整理すると上図のようになります。
さて、ここから「この遺伝病の原因となる潜性(劣性)遺伝子を持っていないと断定できる人」を特定していくわけですが、要は遺伝子Xaを持っていない人を選べばよいわけです。
女性メンバーの中には、遺伝子型が確定できずXAX?となっている人がいますが、これらの人々は遺伝子Xaを持っていないと断定できません。よってこの問いの候補からは外れます。
文章で書くとすごく長ったらしくなりますが、慣れてくるとこの一連の考え方は数分で終わらせることができるようになります。
③の解き方
5番の女性と10番の男性から産まれる子供が発病するかどうか、という問いです。
これは丁寧に作図していけば大丈夫なのですが、5番の女性の遺伝子型が2通りありうるということに気を付けなければなりません。
5番の人の遺伝子型はXAXAかXAXaになるので、この両方を考慮する必要があります。それを踏まえて図を書くと、以下のようになります。
結果、8通りのうち2通りで発病することになります。
④の解き方
この問題は知識問題ですね。答えは
(ア)赤緑色覚異常と(ウ)血友病です。
伴性遺伝に関する実例を答えさせることはあまり多くはありませんが、一部の医学部などで出題されることもあります。
高校生物では、伴性遺伝に関する病気の実例としては
- 血友病
- 赤緑色覚異常
の2つを覚えておけばよいでしょう。
また、筋ジストロフィーの中には伴性遺伝するタイプがあります。
ヒト以外に目を向けると、例えばショウジョウバエの白眼変異、三毛猫が比較的有名ですね。
血友病はヒトの遺伝病としてもっともよく知られているものの一つです。
特にヨーロッパの王族の血友病は、記録も詳細に残っていることから有名です。19世紀、イギリスのヴィクトリア女王の子孫はイギリス、ドイツ、スペイン、ロシアなどの各王族に嫁いでいきましたが、それらの王室に血友病患者が誕生したことから、ヴィクトリア女王が血友病に関わる遺伝子を有していたと考えられています。
このような事例から血友病は「王家の病」とも呼ばれています。
まとめ
伴性遺伝は現在の教科書では発展内容になっていますので、初見で解いていくのはやや難しいタイプの問題です。しかし、多くの大学で今でも出題される上え、丁寧に解き方を理解しておくと逆にパターンが分かりやすく、解答しやすい問題でもあります。
ショウジョウバエの白眼の伴性遺伝は比較的頻出ですので、また改めて解き方を解説していく予定です。
三毛猫の伴性遺伝も、やや複雑で難しいのですがこちらの記事で解説しています。
家系図の遺伝問題は他にABO式血液型に関する問題があります。こちらをご覧ください。
それでは!