今回は、ハーシーとチェイスの実験(T2ファージの実験)に関する問題について解説していきましょう。
主に医療系学部でよく目にするテーマです。出題頻度はそれほど多くはないものの、やや難問に仕上がる傾向があるので、考え方の基本を抑えておきましょう。
ハーシーとチェイスの実験についての解説はこちらをご覧ください。
例題
では、この例題をご覧ください。ちょっと長めです。丁寧に読み進めていってください。
ハーシーとチェイスの実験は遺伝子の本体がDNAであることを明確にした。
以下が彼らの実験の概略である。
- リンの放射性同位体(32P)でDNAを標識したT2ファージ(P標識ファージ)と、硫黄の放射性同位体(35S)で外殻タンパク質を標識したT2ファージ(S標識ファージ)を作製する。
- 大腸菌を培養した液にそれぞれの標識ファージを加え、ファージが大腸菌へ結合するがファージの増殖が起こらない程度の短時間だけ培養する。その後、遠心分離で大腸菌を沈殿させ、上澄みは捨てて結合しなかったファージを除去する。
- 大腸菌を新しい培養液に加え、この培養液をミキサーで激しく撹拌する。その後この培養液を遠心分離し、大腸菌を含む沈殿と上澄みを回収する。上澄みに含まれる放射能を測定し、ミキサー撹拌前の培養液に含まれる放射能を100%としたときの上澄みに含まれる32Pや35Sの割合を調べる。
- 沈殿に含まれる大腸菌の培養を続け、ファージを増殖させて多数の子ファージを得る。子ファージに含まれる32Pや35Sの割合を調べる。
下図は、ミキサーでの撹拌時間が32Pや35Sの割合にどのように影響するかを示したものである。
①図の結果から、8分のブレンダー撹拌を行った時のデータを踏まえて、ファージの何%がDNAを大腸菌へ注入したのかを以下のように推論した。()に入る数値を選択肢から答えよ。
「上澄みから検出された35Sは(ア)%であることから、大腸菌に結合したファージのうち(イ)%がブレンダー撹拌によって大腸菌から離れたと考えられる。
しかしながら、上澄みから検出された32Pは(ウ)%しかないことから、大腸菌から離れたファージの一部はDNAを有していないと考えられる。
つまり、大腸菌に結合したファージのうち少なくとも(エ)%は大腸菌にすでにDNAを注入していると考えられる。
また、大腸菌に結合したファージのうち最大(オ)%が大腸菌にDNAを注入した可能性がある。」
選択肢
10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90
②ハーシーとチェイスは、標識ファージを感染させた大腸菌の培養を続け、ファージを増殖させる実験を行った。その結果としてDNAが親ファージから子ファージへと伝わることを示した。得られた実験結果として最も適当なものを、以下の選択肢から1つ選べ。
- 32P標識の実験では、すべての子ファージから放射線が検出され、
35S標識の実験でも、すべての子ファージから放射線が検出された。 - 32P標識の実験では、すべての子ファージから放射線が検出されたが、
35S標識の実験では、子ファージから放射線が検出されなかった。 - 32P標識の実験では、すべての子ファージから放射線が検出され、
35S標識の実験では、一部の子ファージから放射線が検出された。 - 32P標識の実験では、一部の子ファージから放射線が検出され、
35S標識の実験では、すべての子ファージから放射線が検出された。 - 32P標識の実験では、一部の子ファージから放射線が検出され、
35S標識の実験でも、一部の子ファージから放射線が検出された。 - 32P標識の実験では、一部の子ファージから放射線が検出されたが、
35S標識の実験では、子ファージから放射線が検出されなかった。 - 32P標識の実験では、子ファージから放射線が検出されなかったが、
35S標識の実験では、すべての子ファージから放射線が検出された。 - 32P標識の実験では、子ファージから放射線が検出されず、
35S標識の実験でも、子ファージから放射線が検出されなかった。 - 32P標識の実験では、子ファージから放射線が検出されなかったが、
35S標識の実験では、一部の子ファージから放射線が検出された。
問題だけでも結構ボリューミーですね。生物の、特に実験問題は読解力も非常に重要です。しっかりと何を言っているのかを把握できるようにしましょう!
①の解き方
ファージが100個あったら、と仮定して考えると、イメージしやすいと思います。
ミキサー撹拌時間8分のデータを見ると、上澄みから検出された35Sは80%と分かります。つまり100個のファージのうち80個が上澄みにいたということですね。
35S由来の放射線が検出されたということは、そこにファージの外殻タンパク質があるということです。ミキサー撹拌によって、大腸菌に結合したファージが剥がれ落ちて上澄みに移行するため、大腸菌に結合した35Sを含むファージのうち80%、つまり80個が大腸菌から離れて上澄みに行き、35Sが上澄みから検出された、ということです。
逆に、20個のファージはミキサー撹拌後も大腸菌に結合したままだということもわかります。
同様にミキサー撹拌時間8分のデータを見ると、上澄みから検出された32Pは35%と分かります。100個のファージのうち、上澄みにいてなおかつDNAを持っているファージは35個ということですね。
さて、ここで一つ疑問が浮かびます。大腸菌に結合した100個のファージのうち80個が大腸菌から剥がれ落ちて上澄みにいますが、DNAを持っているファージは35個しかいません。残りの45個はDNAを持っていません。
なぜ45個のファージはDNAを持っていないのか、それはすでに大腸菌にDNAを注入済みだからと考えられます。
また、ミキサー撹拌後も大腸菌に結合しているファージが20個ありますが、これらがDNAを注入済みかどうかは分かりません。20個すべてがDNAを注入済みかもしれませんし、ひとつもDNAを注入していないかもしれません。
上記のことから、大腸菌に結合したファージのうち少なくとも55個、つまり少なくとも45%が大腸菌にDNAを注入済みであると考えられます。
また、ミキサー撹拌後も大腸菌に結合したままの大腸菌が20個ありますが、これらすべてが大腸菌にDNAを注入済みであるならば、大腸菌に結合したファージのうち最大65個、つまり最大65%が大腸菌にDNAを注入済みと考えられます。
というわけで、
となります。
②の解き方
これはハーシーとチェイスの実験の内容をよく理解していれば、然程難しくはありません。
ポイントは、子ファージのすべてから32P由来の放射線が検出されるわけではないというところです。
子ファージの材料となるDNAは、親ファージが注入したものもあれば、大腸菌内で新しく複製されたものもあります。親ファージのDNAは32Pで標識されていますが、大腸菌内で複製されたDNAは標識されていない普通のDNAです。
ファージのDNAは、大腸菌がもともと持っているヌクレオチドを使って複製されていきます。したがって、親ファージの32P標識DNAを用いて組み立てられた子ファージからは32P由来の放射線が検出されますが、大腸菌内で複製されたDNAを用いて組み立てられた子ファージからは32P由来の放射線が検出されません。
更に、35Sで標識された親ファージの外殻タンパク質は、大腸菌の外部に結合したままで、大腸菌の内部に入るわけではありません。大腸菌内で複製される子ファージのタンパク質は、大腸菌がもともと持っているアミノ酸を使って複製されます。したがって、子ファージからは35S由来の放射線が検出されることはありません。
以上の考察より、
となります。
まとめ
いかがでしたか?ちょっと難しかったかもしれませんが、ハーシーとチェイスの実験を元ネタにした問題としては標準レベルといったところでしょうか。
グラフの読み取り方から、ファージの動向を考察するというところがポイントであったかと思います。このあたりがしっかり読解できてイメージできるようになれれば、この手の問題は余裕で解けるようになるでしょう。
それでは!