【高校生物】PCRのこと、ちゃんと知ってる?

遺伝情報の発現
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PCRという言葉を、高校生物や大学だけでなく、一般でも耳にする世の中になりました。

猫も杓子もアナウンサーもコメンテーターも近所のおじさんもPCR、PCRと言う時代ですが、PCRとはどういうものなのか、何をやっているのか、意外と説明できない人の方が多いのではないでしょうか?

大学入試(+大学院入試)でも近年は頻出の話題なだけに、ここで一度知識を整理しておきましょう!

PCRとその用途

PCRは、Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の頭文字をとった用語です。

ごく微量のDNAを原料として、DNAの特定の領域を数時間で数百万倍に増幅することができる技術です。

PCRは様々な分野で活用されています。例えば、分子生物学においてDNAの構造や機能の解析、医療分野ではウイルスや病原体の検出、食品分野では微生物検査や遺伝子組み換え食品の検出など幅広いです。

生物体からサンプルとして得られるDNAというのはごくごく微量で、とても実験には使えない、あるいは検出できない程度の量しか得られないことがほとんどです。PCRを行うことにより、実験に使用するのに十分な量、また確実に検出できる量まで増やすことが非常に重要です。

また、サンプル中に標的となるDNAが存在するかしないかというタイプの分析もPCRが得意とする分野です。

PCRの原理

①プライマーの設計

まず、増幅を行いたいDNA領域を設定し、プライマーを設計します。
プライマーは増幅を行いたいDNA領域を挟むようにペアで設計します。
この際、増幅したい領域の末端に対して相補的な配列になるようにプライマーの塩基配列を設定する必要があります。図を見てみてください。

プライマーを増幅したい領域の両側を挟むように設計する

増幅したい2本鎖DNAのうち、一方のDNA末端とプライマーが相補的な配列になるようにしていますね。これが後々重要になってきます。

PCRでは、プライマーは人工的に合成した一本鎖DNAを使用します。

生体内では、プライマーはプライマーゼと呼ばれる酵素により合成される短いRNAのことを指します。このプライマーを足場として、DNAポリメラーゼがDNAを合成していきます。

生体内ではプライマーはRNAPCRではプライマーは一本鎖DNAであるという違いには注意しましょう。RNAは分解されやすいので、実験に使用するのは不向きだからです。

プライマーの長さは20塩基対前後にするのがベターです。

短すぎると、似たような配列がDNA中のほかの部位にある可能性が高く、意図したDNAの場所にプライマーが結合しない可能性があります。

しかし長すぎると、そもそも人工的に合成するのが大変だったり、構造が複雑になり過ぎてプライマーとDNAがうまく結合しなかったりします。

②反応溶液の準備

PCRに必要な要素を一つの溶液にまとめて準備します。

必要なのは以下の要素です。

  • プライマー
  • バッファー
    (DNAポリメラーゼが最適に働けるようにpHや塩濃度を一定に調整します)
  • デオキシリボヌクレオチド3リン酸(dNTP)
    (DNA合成に必要なアデニン、チミン、シトシン、グアニンの4種)
  • DNAポリメラーゼ
    (DNA合成酵素)
  • 増幅したい領域を含むDNA

③DNAを一本鎖に解離

次に、増幅したい領域を含む2本鎖DNAを加熱して1本鎖DNAに解離させます。

DNAはアデニンとチミン、シトシンとグアニンがそれぞれ水素結合して2本鎖になっていますが、94℃~98℃まで加熱すると水素結合が切断され、2本鎖DNAが1本鎖DNAに解離します。

2本鎖DNAは高温で1本鎖DNAに解離する

④プライマーの結合

1本鎖になったDNAにプライマーを結合させます。

2本鎖に解離したDNAは、温度が50℃~65℃くらいまで下がると、再び水素結合を形成して2本鎖DNAに戻ろうとします

この際、プライマーが大量にある条件だと、元のDNA同士が結合するよりも優先してプライマーがDNAに結合します。プライマーは増幅したい領域の両側にある配列に相補的に結合するように配列を設計してあるため、プライマーは狙った位置に結合します。

解離したDNAを冷やすと再び2本鎖に戻ろうとするがその際にプライマーと結合する

⑤DNAの合成

プライマーが結合したら、反応溶液に添加してあるDNAポリメラーゼによって、プライマーを起点としてDNAの相補鎖が複製されていきます。もちろんこの際は5’末端から3’末端の方向にのみ合成がされていきます。

DNAポリメラーゼが働く最適温度は、68℃~72℃程度であることが多いです。

プライマーを足場に、DNAポリメラーゼによりDNAが複製される

「③で90℃以上の高温にさらされたはずなのに、なぜ酵素であるDNAポリメラーゼが失活していないの?」と疑問に思った方はかなり鋭いです。
一般的にPCRに使用するDNAポリメラーゼは、③のDNA解離ステップに耐えられるよう、好熱性細菌由来のものを用います。好熱性細菌は80℃以上の環境で生育する細菌で、海底の熱水噴出孔などに生育しています。もともと高温環境下で生育する細菌ですので、そのDNAポリメラーゼも高温で変性・失活しないという特徴を有しています。

⑥繰り返し

③から⑤の手順を繰り返し行うことにより、DNAが増幅されていきます。

③から⑤の手順を1回行えばDNAは2倍に、2回行えば4倍に、3回行えば8倍に…というように倍々に増幅します。③から⑤の手順を「サイクル」と呼び、通常はこのサイクルを25~40回程度繰り返します。

細胞内でのDNAの複製とPCRとの対比

細胞内でもDNAの複製は行われています。それを人工的に再現したのがPCRであるといえます。

  1. 細胞内ではDNAヘリカーゼにより2本鎖DNAが巻き戻され1本鎖DNAに
    →PCRでは加熱により2本鎖DNAを1本鎖に解離
  2. 細胞内ではプライマーゼがプライマーとなる短いRNA断片を合成する
    →PCRでは人工合成した短い1本鎖DNAをプライマーとして用意し結合させる
  3. 細胞内ではDNAポリメラーゼによりDNAが合成されていく
    →PCRでもDNAポリメラーゼによりDNAを合成する

PCRの応用

PCRを応用すると、例えば病原体に感染しているかどうかという検査を行うことも可能です。

例えば、ある病原体に感染したヒトAがいたとします。この人から体液を採取してDNAを取り出すと、そこにはヒトのDNAと病原体のDNAが混在しています。
病原体に感染していないヒトBから体液を採取してDNAを取り出すと、そこにはヒトのDNAしか存在していません

さてここで、あらかじめ病原体のDNAを増幅させられるが、ヒトのDNAは増幅できないようなプライマーを設計しておき、採取したDNAをこのプライマーを用いてPCRで増幅させてみます。

その結果、ヒトAから採取したDNAには病原体のDNAが含まれているため、PCRにより病原体のDNAが増幅するという結果が得られます。この結果から、ヒトAは病原体に感染していると判定できます。

対して、ヒトBから採取したDNAには病原体のDNAが含まれておらず、PCRを行ってもDNAが増幅しません。この結果から、ヒトBは病原体に感染していないと判定できます。

病原体用のプライマーはヒトのDNAに結合しないように設計されています。ヒトBから採取したDNAにはヒトのDNAしか含まれていないので、病原体用のプライマーを使ってPCRをしてもDNAは増幅しない、というのがポイントです。

病原体用のプライマーをつくるためには、病原体のDNAの塩基配列をしっかりと把握することが重要です。

まとめ

PCRの手順とその仕組みについて解説していきました。

各工程で何が行われているか、模式図と合わせながらイメージできるようにしていってください。

ちなみにPCRはあくまでも「DNAを増幅させる」反応であり、PCRだけではDNAの塩基配列を解読するということはできませんのでご注意を。
塩基配列を解読するためにはDNAシーケンスという別の実験を行う必要があります。

それでは!

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