【高校生物】ES細胞とiPS細胞

iPS細胞は体細胞から作られる細胞と生物
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幹細胞の具体例としてはES細胞やiPS細胞が有名ですね。どちらも万能細胞とも呼ばれるもので、無限に増殖できる能力を持ち、身体を構成するすべての細胞に分化することができる細胞です。

しかし、ES細胞とiPS細胞がどう違うのか、ちょっとあやふやな方も多いのではないでしょうか?
実際、この質問は結構な頻度で聞かれることがありますので、解説してみようと思います。

そもそも幹細胞って何?

ES細胞やiPS細胞について説明するためには、幹細胞について理解しておく必要があります。

多細胞生物を構成する細胞は、大きく分けると3つに分類できます。
分化細胞」「TA細胞」そして「幹細胞」の3種類です。

多細胞生物のはじまりは受精卵です。このただ一つの細胞から成る受精卵が卵割や分裂を繰り返すことにより生物の体ができていくわけですが、この過程でそれぞれの細胞の特徴付けがなされていきます。
例えば中胚葉由来の細胞が心筋になったり、外胚葉由来の細胞が神経になったりしますね。
この細胞の特徴付けのことを分化と呼びます。

分化細胞というのは、既にこの分化によって特徴づけが終わった細胞のことです。つまり、心筋の細胞になったり神経の細胞になったりしている状態の細胞ですね。
これらは「最終分化細胞」とも「終末分化細胞」とも呼ばれ、これ以上別の種類の細胞に分化したり、細胞分裂をすることもありません
言い換えると、分化や分裂ができないように調節されています。例えばもし、心筋の細胞がまだ別の細胞に分化できる余力を残していたならば、ある日突然私の心筋の細胞が神経細胞に替わってしまう、なんてことが起きるかもしれません。それはマズいですよね(というかそんなことが起こるのは怖すぎます)。
そのようなことが起こらないよう、分化細胞はこれ以上分化したり分裂したりしないようになっています。体を構成する細胞の大部分がこの分化細胞です。

TA細胞とは、完全に分化する分化する少し前の状態の細胞です。
この細胞は完全に分化が終わっているわけではないので、活発に増殖することができます。増殖したTA細胞はさらに分化し、分化細胞となります。
「○○前駆細胞」という名称がついていることが多いです。

そして幹細胞です。幹細胞は、自己複製能力と分化能力を併せ持った細胞と定義されています。
つまり、自分自身と全く同じ細胞を複製することもできるし、必要に応じて分化して別の細胞に変化することもできるということです。
また、幹細胞は半永久的に細胞分裂ができるという特徴もあります。

ES細胞について

さて、幹細胞について少しまとめたところで、ES細胞について説明していきましょう。

ES細胞とは、Embryonic Stem Cell、日本語訳すると胚性幹細胞と呼ばれる幹細胞です。

ほ乳類の発生段階で、胚盤胞期と呼ばれる時期があります。ウニやカエルの発生段階でいうと胞胚期に相当する時期です。
ES細胞はこの胚盤胞期の一部である、内部細胞塊と呼ばれる細胞を取ってきて、体外でも培養できるようにしたものです。

ES細胞はあらゆる組織に分化できる特徴を持っています。この特徴のことを多能性と呼びます。
ES細胞を利用すると、例えばけがや病気で失われたり損傷したりした組織や器官をES細胞から創り出すこともが可能になります。このような治療方法を再生医療とも呼びます。

胚盤胞期の細胞には、将来胎盤などに分化する栄養外胚葉と呼ばれる細胞と、将来胎児に分化する内部細胞塊と呼ばれる細胞が含まれています。
栄養外胚葉は既に胎盤などに分化することが決まっているので、多能性は有していません。
しかし内部細胞塊は胎児になる細胞です。つまり体のすべての部位になりうる可能性を秘めており、多能性を有している細胞であるといえます。

しかしながらES細胞には大きな問題点が2つあります。倫理的な問題拒絶反応の問題です。

先ほど、ES細胞は胚盤胞期と呼ばれる時期の細胞から創り出すと説明しました。さらっと書きましたが、胚盤胞期というのは受精卵の発生段階の一つです。つまり、ES細胞は受精卵から作製されるということもできます。
これが倫理的な問題にあたります。つまり、ES細胞を作製するためには、そのまま発生が続けば一人の人間になるはずだった受精卵を犠牲にしなければならないのです。

また、ES細胞というのは他人の受精卵から由来するものです。ES細胞から創り出した臓器や器官を移植しようとしても、移植先のヒトと遺伝子型が一致しないため、拒絶反応を起こす可能性もあります。

iPS細胞について

iPS細胞は、induced Pluripotent Stem Cell、日本語訳すると誘導多能性幹細胞と呼ばれる幹細胞です。人工多能性幹細胞という呼称も使われますね。

iPS細胞は、体内の細胞に、多能性に関与していると考えられる4つの遺伝子を導入するという手法で作成された細胞です。

iPS細胞は体細胞から作られる

iPS細胞もES細胞と同じく、あらゆる組織に分化できる多能性を持っています。ですので再生医療に使用することも可能です。

iPS細胞は、ES細胞が持っていた2つの問題点を解消しているという点で優れています。
iPS細胞は受精卵由来の細胞ではなく、体細胞から作製することができます。ということは、倫理的な問題を回避することができるということですね。
更に、移植の対象となる人自身の細胞からiPS細胞を作製することが可能です。ということは、拒絶反応の心配もないということです。自分自身の細胞を自分自身に移植する、ということになるわけですしね。

このような特性から、再生医療への利用も大いに期待されており、研究が進められている幹細胞です。

ほぼ常識の範囲内かもしれませんが、iPS細胞の開発者は山中伸弥教授(京都大学)です。
山中教授はこの功績が認められ、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

なぜiPS細胞の頭文字のiが小文字なのか疑問に思った方もいるのではないでしょうか?
当時広く使われていたiPodにあやかり、iPodのように広く普及して欲しいという想いが込められているそうです。

まとめ

最後に簡単にES細胞とiPS細胞の違いをまとめてみましょう。

ES細胞とiPS細胞の比較

今後の医学や生物学の発展にとても期待されている分野です。

特にiPS細胞については、開発の過程を元ネタにした問題なんかも出題されるなど、大学入試などで見かけることも多くなってきましたね。

それぞれの細胞の特徴や作出の仕方などは、確り覚えておいて損はないでしょう。

それでは!

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